いつでも、どこでも、だれにでも 上質な法的サービスを。
いつでも、どこでも、だれにでも 
上質な法的サービスを。

TEL: 095-820-2500

[平日] 9:00~17:00

ホーム法律の話(ブログ)著作権 > オンライン授業と著作権

オンライン授業と著作権

2020/05/08

 

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下で、多くの自治体において、学校の一斉休校の措置がとられています(長崎でも、一斉臨時休校の措置がとられていましたが、5月11日に学校再開となっています(https://www.city.nagasaki.lg.jp/shimin/193010/193011/p030021.html)。

この間、全国的にはオンライン上の遠隔授業を試行した学校もあるようでしたが、今回は、著作権法上の問題を整理したいと思います。

この記事では、オンライン授業における著作権法上の問題について弁護士原幸生が解説します。

 

著作物(市販の出版物や学校教材)の複製・公衆送信について

前提として、授業で使用される市販の出版物はもちろん、学校教材である教科書やドリルも著作物ですから、著作権者の許諾なく複製および公衆送信に供することはできないのが原則です。

複製とは、著作物を有形的に再製することですが、固定される物や固定方法は問わないとされています。

具体的には、学校教材の一部分をコピー機で印刷する行為はもちろん、スキャンしてPDFデータ化したものをパソコン内のHDDへ保存する行為も複製となりますし、学校教材を黒板へ板書する行為や、ノートへ書き写す行為も複製となります。

 

著作物の公衆送信とは

公衆送信とは、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことですが、要するに、インターネットを利用して著作物(データ)を閲覧したり、させたりすることです。

オンライン上の遠隔授業では、著作物の公衆送信が行われることとなります。

そうすると、いちいち著作権者に許可をとらなければ、およそ学校の授業などできないということになりかねません。

しかし、学校教育は国家にとっても個人にとっても極めて重要であり、教育において著作物を利用する必要性は高いため、著作権法には、例外規定が定められています。

学校その他の教育機関では、「その授業の過程における利用に供することを目的」とする場合には「必要と認められる限度」で、著作物の複製、複製物の提供、公衆送信を行うことが認められているのです(著作権法35条1項)。

ただし、公衆送信を行う場合には、「相当な額の補償金」を著作権者に支払わなければならないとされています(著作権法35条2項)。

といっても、今般の事態の緊急性・重要性に鑑み、指定管理団体の判断に基づき、令和2年度に限っては、特例的に補償金額は無償とされ、令和2年度中は、補償金の支払いなく公衆送信を行うことができます。 

なぜ令和2年度中は無償で公衆送信が可能となったのかというと、以下のような経緯があります。

令和2年度中に限り、無償で公衆送信が可能となった経緯

実は、このような補償金制度は、著作権法の改正により新たに創設された制度なのですが、施行されたのは、つい先日である、令和2年4月28日です。

このような制度に改正される前は、公衆送信については、先生と生徒が教室内で対面授業をし、それをインターネット上で同時中継する形でしか許されていませんでした。

そうすると、現在多くの学校が想定している、生徒全員が自宅にいることを前提としたオンラインでの遠隔授業を行おうとすると、どうしても公衆送信の点をクリアできず、著作権者の許諾なく行うことは困難でした。

もっとも、今般の事情から、教育現場では、オンラインでの遠隔授業等のニーズが急速に高まっており、文化庁も、3月時点で、主要な権利者団体に対して、教育機関で公衆送信を行う際は、無償で利用許諾するよう積極的な配慮を求める(要は緊急事態なので今は目をつぶっていて欲しい)という事務連絡を通知していました。

そのような状況で、(主に大学から)より抜本的に対応すべきであろうとの声があがり、文化庁では、指定管理団体と協議を重ね、当初の予定であった、令和3年5月までの施行を前倒しする形で、本格的に遠隔授業等が開始される4月末から施行することを決定したという経緯があります。

新型コロナウイルスがきっかけではありますが、3月の事務連絡通知からわずか1か月強で施行するに至っており、かなりスピード感のある対応です。

今後、国民の生活様式がどのように変化するかは分かりませんが、教育現場における新たなサービス提供の形として、オンライン上での遠隔授業のニーズは増加するかもしれません。

なお、令和3年度からは原則通り有償となるようですが、具体的な金額については、今後、教育機関の設置者を代表する各団体からの意見を聴いた上で、文化庁が指定した「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)」が案を作成し、文化庁の認可を受けることになるとのことです(詳細は下記リンク先)。

平成30年著作権法改正による「授業目的公衆送信補償金制度」に関するQ&A(基本的な考え方)

https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2020042401_04.pdf