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結婚式のキャンセル料は支払うべき?

弁護士原幸生による記事です。

1 コロナ渦における結婚式のキャンセル

 国民生活センターによると、2020年1月から4月において、新型コロナウイルスに関連した消費者生活相談が増加しているとのことです。最も多い相談内容は、マスク関連(保健衛生品)についてですが、2番目に多い相談は「結婚式」に関するもので、キャンセル料の支払いについての相談も多いようです。

 コロナの影響で結婚式をキャンセルした場合、実際にキャンセル料を支払う必要があるかどうかは、個別の事案で異なります。

2 契約書・約款の確認を

 通常は、式場(ブライダル会社)との間で契約書や約款等を取り交わしているでしょうから、まずは、契約書にどのように記載があるかを確認することが重要です。

 ちなみに、公益社団法人日本ブライダル文化振興協会が、「結婚式場・披露宴会場におけるモデル約款」を公開しているため、多くのブライダル事業者が、モデル約款に準じた約款を利用していると思われます。

 モデル約款を確認してみると、「お客様が既に契約された挙式・披露宴を解約される場合には、解約料金を頂戴いたします。」といった内容で、キャンセル料請求の規定があるため、実際の約款にも同様の規定があると思われます。

 約款にこのような規定があって、中途でキャンセルした場合、キャンセル料を支払うべきか否かの問題が生じます。

3 不可抗力によるキャンセル?

 民法上は、双方ともに責任があるとは言えないような、やむを得ない事由(不可抗力)が原因で、義務の履行ができなくなった場合、顧客側は、反対給付(サービス料やキャンセル料の支払い)を拒んだ上で、契約を解除することができるとされています(民法536条1項,542条1項)。

 そのため、約款にキャンセル料規定があったとしても、不可抗力でキャンセルした場合は、キャンセル料を支払わず解除することができます。問題は、コロナを理由とした中止が、不可抗力と言えるかです。誰もが想定し得なかった事情ですから、顧客側としては、まずは、不可効力によるキャンセルと主張してよいと思います。ブライダル事業者との間で、不可効力によるものとの協議が整えば、それまでです。

 ただし、不可抗力か否か、双方で見解が対立することも予想されます。その場合、緊急事態宣言下でも結婚式場が休業要請の対象外であったことを踏まえると、コロナを理由としたキャンセルが不可抗力によるものとまで言えるかは、判断の分かれるところでしょう。

4 「平均的な損害」とは?

 仮にキャンセル料を支払うこととなるとしても、過大な額を支払う必要はありません。消費者契約法第9条1号が適用され、「平均的な損害」額を超える部分の約款の規定は無効となります。

 「平均的な損害」額をどのように考えるかは、いくつか裁判例がありますが、まさに式場のキャンセル料が問題となった裁判例(京都地裁平成26年8月7日判決)では、「平均的な損害」を逸失利益と捉えています。ここで言う逸失利益とは、キャンセルされなかったなら得られたはずの売上げから、キャンセルしたことで不要となった経費と、キャンセルされたとしても他の顧客と再契約することで補填しうる利益分を差し引いた額のことです。

 この裁判で問題となった事業者は、モデル約款に準じたキャンセル料を設定していたようです。

 結論としては、逸失利益を計算すると、約款で定めたキャンセル料の方が低額であったため、事業者の設定したキャンセル料は「平均的な損害」額を超えていないと判断されています。ただし、この裁判例は、あくまでも当該訴訟で問題となった事業者の売上げ及び経費等を前提に計算されたものですから、一般化されるものではありません。たとえば、総売上げに対して、売上原価や販管費等の経費を占める割合が高く、利益率が低いような事業者であれば、モデル約款通りに設定したキャンセル料が、「平均的な損害」(逸失利益)よりも高額となることはありえるでしょう。

 そうはいっても、少なくとも過去3年程度の損益計算書を確認した上で、各科目について詳細に検討しなければ、逸失利益は計算できません。当事者間の話し合いの段階では、経営上の内部資料が開示されることはないでしょうから、事前に逸失利益(「平均的な損害」)の計算を行うことは困難でしょう。

5 まとめ

 不可抗力であればキャンセル料の支払いは不要となりますが、コロナにより結婚式の開催を断念する場合、不可抗力とまで言えるかは難しいケースもあると思われます。キャンセル料を支払うとしても、「平均的な損害」額が限度となります。ただし。話し合いの段階では、「平均的な損害」額を実際に計算することは難しいでしょう。

 そうはいっても、新型コロナウイルスについては、顧客側・事業者側双方とも想定し得なかった事由であり、約款を通常通りに適用してよいのかも含め、具体的なキャンセル料について、十分協議する必要はあろうかと思います。

 なお、公益社団法人日本ブライダル文化振興協会のHPでは、国民生活センターへ結婚式のキャンセル相談が増加していることを受けて、ブライダル事業者へ向けて、「お客様の想いを受け止めていただき、柔軟な対応をお願いいたします。」と呼びかけています。強制力があるものではありませんが、ブライダル事業者としては、このような趣旨を踏まえた上で、顧客側と十分な協議を行うことが期待されます。