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ホーム > 法律の話(ブログ) > 相続・遺産・後見人 > 「借金は後継者が払うから大丈夫」と思っていませんか?——相続人が知らないと危険な“債務の引き継ぎ”という現実
事業主の死後、その事業を第三者が引き継ぐことは珍しくありません。しかし、借金について「後継者が払うと言ってくれているから安心」と思ってしまうのは、実は大きな落とし穴です。
今回は、あるご夫婦の事例をもとに、「相続と借金の関係」について分かりやすく解説します。
Aさん(70歳・女性)は、長年連れ添ったご主人を1か月前に亡くしました。ご主人は小さな個人商店を営んでおり、法人登記はせず、商売上の契約や借入れもすべて個人名義でした。
お子さんはいらっしゃらず、相続人はAさん一人。幸い、事業の引継ぎ先が見つかり、ご主人の取引先の一人が店をそのまま引き継いで営業を続けています。
そんなある日、Aさんのもとに銀行や消費者金融からの請求書が届くようになりました。差出人は、すべてご主人が生前に契約していた金融機関でした。
Aさんは少し驚きながらも、「事業はもう他の人がやっているし、借金もその人が払ってくれると言っていた」と、さほど深刻には受け止めていませんでした。
民法第896条により、相続人は被相続人の一切の権利義務を引き継ぎます。つまり、たとえ借金が事業用のものであっても、借入先との契約名義がご主人である限り、それは相続の対象=相続人の責任となります。
Aさんが「知らないうちに借金を背負っていた」ということも、法的にはあり得る話なのです。
事業を引き継いだ方が、「借金も自分が責任を持って支払うつもりです」と話してくれていたとしても、それだけでは債権者に対しての効力はありません。
法的に債務者の名義を変更するには、金融機関と後継者が「免責的債務引受け」の契約を締結し、正式に債務を移す必要があります。これが行われていない限り、請求先はあくまで相続人であるAさんのままです。
こうしたケースでは、次の3つの方法が検討されます。
これらは、できるだけ早く行動に移す必要があります。特に相続放棄には原則として「相続開始を知ったときから3か月以内」という期限があります(民法915条)。
「後継者が払う」と思っていた借金が、自分に請求される——。これは他人事ではなく、誰にでも起こり得る問題です。
相続は感情的にも負担の大きい時期に、法的な判断を伴う難しい局面です。不安な点や不明な点がある場合は、お一人で抱え込まず、弁護士など専門家に早めにご相談されることをおすすめします。