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医療過誤訴訟における過失の基準-医療水準論

 医療過誤訴訟では、医師の注意義務違反=過失がまず問題になりますが、その注意義務の基準となるのが、「医療水準」です。
 その考え方をまとめた準備書面の抜粋です。

 下記準備書面は,あくまで一例です。
 案件によって,書面内容は変わりますので,詳しくは,直接お問い合わせ下さい。

 お電話でのお問い合わせは→東京:03-5575-1400 長崎:095-820-1500
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2 医療水準論の展開
(1) 医師の注意義務
 判例上,医師は,「実験上必要とされる最善の注意義務」を負うとされるが,そのリーディングケースとなったのが,最一小判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁である。同判決は,次のように判示する。「いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は,その業務の性質に照し,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは,已むを得ないところといわざるを得ない。」
 この「実験上必要とされる最善の注意義務」という定義付けに対しては,開発途上の治療行為であってもそれを実施すべき義務が医師に課されることになるが,医療の高度化に伴い,最先端ないし開発途上の治療を臨床医全てに求めるのは過酷であるとの医療側からの強い反発があった。
(2) 医療水準論の登場
 そこで,医師が負う「実験上必要とされる最前の注意義務」と医療の現実との調和を図り,臨床の現場における医師の注意義務の判断基準となるものとして,「医療水準」という概念が,まず学説上主張され,ついには最高裁判所も採用するところとなった。
 そのリーディングケースとなったのが最三小判昭和57年3月30日判時1039号66頁である。
 同判決は,前掲最判昭和36年2月16日の「実験上必要とされる最前の注意義務」という判示を引用した上で,「右注意義務の基準となるべきものは,診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」と判示した。
 その後,多数の最高裁判決,下級審判決が同旨の判示を繰り返した(最高裁判決として,最三小判昭和57年7月20日判時1053号96頁,最二小判昭和61年5月30日判時1196号107頁,最一小判昭和61年10月16日判時1217号60頁,最三小判昭和63年1月19日判時1265号75頁,最三小判昭和63年3月31日判時1296号46頁,最二小判平成4年6月8日判時1450号70頁)。
 ところが,この医療水準論は,その後,下級審判決において,実質的に医療に対する責任否定の道具として使用される実態があった。それに対し,医療水準論が,現状あるいは医療慣行に安住した治療方法を是認する概念として機能しているという批判がなされるようになっていた。
(3) 現在の最高裁判決の医療水準論
 この行き過ぎを正したのが,平成7年以降の最高裁判決である(最三小判平成7年5月30日判時1553号78頁,最二小判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁,最三小判平成8年1月23日民集50巻1号1頁)。
 その萌芽は,前掲最判昭和63年1月19日における伊藤正己補足意見にあった。同補足意見は,「医療水準は,全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではな(い)」として,「当該医師の置かれた諸条件,例えば,当該医師の専門分野,当該医師の診療活動の場が大学病院等の研究・診療機関であるのか,それとも総合病院,専門病院,一般診療機関などのうちのいずれであるのかという診療機関の性格,当該診療機関の存在する地域における医療に関する地域的特性等を考慮して判断されるべきものである。」とした。
 その趣旨を最高裁として確認した代表的判決が,前掲最判平成7年6月9日である。同判決は,次のようにいう。「ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり,右の事情を捨象して,すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない。そして,新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており,当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には,特段の事情が存しない限り,右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである。」
 同旨の判断は,前掲最判平成8年1月23日にも見られる。「この臨床医学の実践における医療水準は,全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく,診療に当たった当該医師の専門分野,所属する診療機関の性格,その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものである」
 これら最高裁判決によれば,医師の注意義務の基準となる医療水準は,
① 医師の専門分野,
② 医療機関の性格,
③ 所在地域の医療環境の特性
等の諸般の事情を考慮して決せられるべきということになる。
(4) 医療慣行との関係
 このような最高裁判決の医療水準論が登場した経過から考えて,現状あるいは医療慣行を追認する結果は,厳に避けられなければならない。
 この点を明言するのが,前掲最判平成8年1月23日の「医療水準は,医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから,平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく,医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって,医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。」という判示である。また,具体的な医療水準の評価として,「当時の医療現場においては一般的であったことがうかがわれるとしても,直ちに,それが当時の医療水準にかなうものであったと判断することはできないものというべきである。」旨を繰り返し強調する最三小判平成18年1月27日判時1927号57頁が参照されるべきである。