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椎間板ヘルニアによる素因減額

素因減額 - 脊柱管狭窄症に続いて,椎間板ヘルニアについてです。
脊柱管狭窄症よりも素因減額されることが多い傾向のある椎間板ヘルニアですが,やはり,安易に素因減額されるべきではありません。

(1) 問題の所在
 いわゆる体質的素因について,最高裁判所は,「疾患」と疾患とはいえない「身体的特徴」を区別し,身体的特徴は減額要因として考慮することができないが,疾患は減額要因として考慮することができるとする(最高裁平成4年6月25日第一小法廷判決民集46巻4号400頁,最高裁平成8年10月29日第三小法廷判決民集50巻9号2474頁)。
 被告は,原告に○○椎間板ヘルニアの既往があり,それが「疾患」であるとして,○○%を下らない減額がなされるべきことを主張している。
(2) 原告に○○椎間板ヘルニアの「疾患」がなかったこと
 椎間板ヘルニアは,有病推定率からして,加齢により発症率は高くなるものの,比較的高齢であっても,その多くが発症するものではないことからすると,基本的には「疾患」と評価すべきとされるようである。
 しかし,椎間板ヘルニアの場合,交通事故等の外傷性のものもあることから,そもそも事故前から椎間板ヘルニアの「疾患」を有していたか否かを慎重に判断する必要があるとされる(日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準下巻(講演録編)2009』58頁(鈴木祐治裁判官講演録)。具体的には,事故前の症状の有無,事故前の受診,診断の有無等が検討されなければならない。そして,その立証責任は,当然,被告にある。
 そこで,本件事故前に腰椎椎間板ヘルニアと診断されたことがなく,そのような症状も出ていなかったこと,本件事故態様でもヘルニアが発症する可能性のあることが認められることを理由に,当該事故によりヘルニアを発症したことを認定した裁判例(神戸地裁平成13年12月5日判決交民集34巻6号1576頁)や,頚椎椎間板ヘルニアが経年性のものであると認めるに足りる証拠がないとして,事故後の神経症状を,頚椎椎間板ヘルニアが事故の際に生じたか又は悪化したことにより生じたものと認定する裁判例(東京高裁平成20年1月24日判決LLI/DB判例秘書【ID番号】06321083)がある。
 これを本件について見ると,原告は,本件事故前,○○に疼痛,痺れなどの神経症状を自覚したことはなく,受診歴もなく,当然,○○椎間板ヘルニアの診断を受けたことがないのであって,他方,本件事故後の○○の神経症状は一貫している。そうすると,本件事故前,原告に椎間板ヘルニアの「疾患」があったとはいえない。
(3) 「共に原因となって損害が発生した場合」といえないこと
 判例は,仮に,椎間板ヘルニアが「疾患」であったとしても,それが加害行為と共に原因となって損害が発生した場合でなければ,素因減額を認めない。
 そこで,追突によるむち打ち損傷においては,追突の程度如何によっては,疾患がない場合であっても,後遺障害等級12級13号や14級9号の後遺障害を負う場合があるのであって,その場合には,仮に「疾患」が認められる場合であっても,「共に原因となって損害が発生した場合」とは認められないとされる。加害行為から通常予想される結果を超えている場合に,加害行為と「疾患」とが「共に原因となって損害が発生した場合」といえるのである。(前掲鈴木祐治裁判官講演録59頁)
 しかし,本件では,被告において,本件事故だけでなく,椎間板ヘルニアが原告の症状の原因となっていることの具体的な立証はない。
(4) ○○椎間板ヘルニアも原因となって損害が発生したとしても素因減額の必要がないこと
 なお,仮に,原告に本件事故前から○○椎間板ヘルニアがあったとしても,本件事故前に症状がなく,本件事故後症状が表われているのであるから,結局,本件事故によりヘルニアが悪化し,後遺障害が生じたということができる。
 そのような場合,「仮に上記椎間板ヘルニアが経年性のもので本件交通事故前からあったものであるとしても,頚椎椎間板ヘルニアを抱えながら社会生活を送っている者は多数存在しており,控訴人の上記ヘルニアが特殊なものであるとの主張立証もないから,同ヘルニアのあったことを損害賠償額の減額事由として考慮する必要はない。」(前掲東京高裁平成20年1月24日判決)。