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むち打ち損傷の医学的基礎

交通事故でよく問題となるむち打ち損傷について、その基本的な医学的知識をまとめた書面(準備書面)の抜粋です。

 

(1) むち打ち損傷の概念
一般に,追突事故などによる頭頚部の後方への過伸展,ついで前方への過屈曲をむち打ちメカニズム(機転,運動)といい,これによる頚部の筋肉・靭帯・椎間板・血管・神経などの組織の損傷を「むち打ち損傷(whiplash injury)」という。
疾病名として,従来は,「頚部捻挫」,「頚椎捻挫」が多用されてきたが,捻挫とは狭義には関節捻挫を意味し,頚部・頚椎の捻挫といえば椎間関節やルシュカ関節の損傷を指すことから,最近は「外傷性頚部症候群」が使われる例も多い。日本整形外科学会用語委員会は,「むち打ち損傷」と呼ぶことを決めているが,「むち打ち症」が使われることもある。以下,日本整形外科学会用語委員会の用語例にしたがい,「むち打ち損傷」を用いることとする。

(2) むち打ち損傷の歴史的展開と医学的解明
むち打ち損傷は,1928年にCrowが,1944年にDavisが報告し,日本では,1958年(昭和33年)に飯野三郎東北大学教授(整形外科)により紹介された。以来,本症は,日本においては,整形外科の領域で扱われてきた。
1960年代の自動車の普及に伴い,本症が多発して社会問題となり,1968年(昭和43年)の第41回日本整形外科学会の総会講演において,「鞭うち損傷」のテーマでシンポジウムが開かれている。
しかし,残念ながら,その後はそれが研究者の主要な関心をひくテーマとはならなかったようである。ただ,法医学者を中心に1982年(昭和57年)に創設された日本賠償医学会が,本症に消極的な立場からの検討を加えてきたにすぎない。
それが,最近になって,CTやMRIなど検査技術の進歩をふまえ,また,賠償医学会への対応の意味もあると思われるが,臨床医・研究者の注目を集めるに至っている(例えば,1990年(平成2年)の第63回日本整形外科学会学術集会パネルディスカッション「頚部外傷性症候群(頚部捻挫)」,1992年(平成4年)の第21回日本脊柱外科学会サテライトシンポジウム「むち打ち損傷―その病態と治療」,1994年(平成6年)の事故解析共同研究会の研究結果(羽成守・藤村和夫著『検証むち打ち損傷-医・工・法学の総合研究-』),1999年のMonthly Book Orthopaedics12巻1号の特集「外傷政経部症候群診療マニュアル-最新の知見から-」など)。
これら最近の研究によっても,むち打ち損傷の正確な病因・病態は医学的に未解明な点が多いというほかなく,現在もその地道な研究の必要性が説かれている現状にある。

(3) むち打ち損傷の分類
むち打ち損傷は,傷害のメカニズムにより定義された概念であり,種々の病態を含んでいる。
その病態として,従前,臨床上認められてきたのが,頚椎捻挫,神経根症状,バレ・リュー症候群,脊髄症といった病態である。それに加え,最近,低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)も発症することが認められるに至った。
以下,従前認められてきた病態を概観する。

ア 頚椎捻挫
頚部の筋肉や靭帯などの損傷(過伸展や部分的断裂)により起こる障害である。
頚部痛や肩甲部痛を主訴とし,疼痛による頚椎の運動制限を認める。
むち打ち損傷の中では,比較的軽度である。

イ 神経根症状
椎間孔内外における神経根[*1]の圧迫や刺激により起こる障害である。
頚椎捻挫の諸症状に加えて,障害された神経根の支配する領域(後頭部,前腕,手,指)に放散する疼痛,知覚障害などが表れる。
頚椎捻挫に比べて,治療に長期間を要する。
単純な頚椎捻挫との違いは,神経学的な疼痛誘発試験[*2]の結果が陽性であるか否かにある。

ウ バレ・リュー症候群
1925年にBarreにより,1928年にLieouにより発表された頚椎に由来する自律神経系の症状をいう。
頭痛,悪心,吐気,めまい,耳鳴り,難聴,眼精疲労,視力調節障害などを主症状とし,易疲労性,労働能力の低下を訴える場合もある。
その原因ついては,一般に,椎骨動脈性の交感神経の症状とする見解が支持されている。
自覚症状を基本とするため,診断名としては,記載されない場合が多いが,本症状を伴うむち打ち損傷は重症であって,治癒に長期間を要する。

エ 脊髄症
頚椎の骨折や脱臼によって生じる。
膀胱・直腸の障害,傷害部位より下位(上肢や下肢)の知覚,運動障害などを伴う。
むち打ち損傷の中では,もっとも重度な障害である。