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加齢変成と事故との関係

交通事故後の手指関節の変形や痛みが事故によるものか年齢によるものかが争われた事件の書面(準備書面)の抜粋です。このような年齢による変性は、あったとしても賠償が否定されたり、減額されることは稀ですが、損保会社は必ずといっていいほど争ってきます。

 

3 変形性関節症と事故との因果関係

(1) 原告の変形性関節症発症の機序
原告の現在の障害が変形性関節症によるものであることは争いがない。
そこで,変形性関節症の医学的知見を概観すると,「本症は,関節軟骨,関節構成体の退行性変化と,それに続発する軟骨・骨の破壊及び増殖性変化の結果起こる疾患である。」(国分正一ほか監修『標準整形外科学〔第10版〕』228頁)。その成因としては,「全身的要因」として,「素因,肥満,性ホルモンの影響,血流障害などが全身の軟骨の加齢を促進する因子として考えられているが,まだ決定的な証拠はない。」一方で,「局所的要因」として,「関節に加わる機械的ストレスの異常は重要な要因である。」とされる(同229頁)。
原告についても,原告の体質的素因があったところに,機械的ストレスにより症状が急速に増悪したと考えられるのである。
以下,前提として,本件事故前には,原告の変形性関節症は顕在化していなかったこと(後記(2)),本件事故時,原告の手指関節に機械的ストレスが加わったこと(後記(3)),その直後から原告が手指の疼痛を訴えていたこと(後記(4),(5)),その後,急速に手指関節の変成が進んだこと(争いはない。),一方で,××など指を使用する生活環境の機械的ストレスは軽微だったこと(後記(6))を明らかにし,A医師意見書に反論する。

(2) 本件事故以前,原告の両手指に症状は出現していなかった
ア 意見書には,「原告の手指関節の・・・変形が著明であり・・・,事故以前から疼痛や可動域制限などの症状が当然存在していたと考えてよい。」との記載があり,「これらの変形は短期間で形成されたものではないため,原告本人も以前から疼痛などの症状があったことについては承知していたはずである。」との記載がある。
いずれも,何ら医学的根拠(Evidence)のない勝手な思いこみであるが,法的には,本件事故前から既に変形性関節症の症状が発現していたのであって,体質的素因による免責,減額等を主張するものと思われる。
イ しかし,実際には,原告は,本件事故以前,両手指の関節の変形に気付いたことはなかったし,痛みを感じたこともなかった。そのために,診療を受けたこともなかったし,本件事故直後の原告の状態を観察したB医師も,両手指の関節の変形を診療録に記載することはなかった(証拠略)。
<以下 略>

(3) 原告の受傷態様
本件事故の態様は,停止していた原告運転の車に,突然背後から被告運転の車がぶつかってきたというものである。
このとき,原告の車の前には大型清掃車が停まっていた。原告は,背後からの衝撃に押されて,目の前に大きな鉄の固まりが迫ってくるように感じ,これにぶつかると大変な怪我をしてしまうと思い,とっさに,右足に強い力を込めて,思い切りブレーキを踏んだ。
同時に,歯を強く食いしばり,軽くハンドルに乗せていた両手の指に,急に強い力を込めて,ハンドルを強く握りしめた。
そうすると,この際,原告の両手指関節に強い衝撃が加わったことは容易に想像できる。

(4) 原告は本件事故直後から手指関節の痛みを訴えていた
<略>

(5) 手指関節の痛みと矛盾するかのようなカルテの記載について
<略>

(6) 原告の手指に,××による負担はなかった
<略>

4 東京地裁平成11年2月10日判決自保ジャーナル1308号3頁
既に訴状でもふれたところであるが,本件と類似する争点が問題となった裁判例として,東京地裁平成11年2月10日判決がある。
同判決は,交通事故被害者(原告)の受傷箇所である頸椎に,もともと加齢による変性変化があったケースについて,「原告の右症状(頸部の疼痛・運動制限等)は,第5,6頸椎に変性変化が存在するところに,本件事故による外的ストレスが加わって,それまで発症していなかった臨床症状が発現したと判断するのが相当である」として,事故と傷害の因果関係を認め,さらに後遺症も認定したのである。
疾患と身体的特徴を区別し,疾患は減額要因として考慮できるが,身体的特徴は減額要因として考慮できないという判例の枠組みのもとで,経年性の変成は疾患ではなく減額の対象にもならないとする下級審の判断は確立しているのである。