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転売は許される?

弁護士原幸生による記事です。

1 法律による転売行為への制限

 先日、新型コロナウイルスの感染拡大で品薄が続いているアルコール消毒製品について、厚労省は、インターネットなどでの転売を法律で禁止し、罰則の対象にする方針を明らかにしました。

 既に、マスクの転売は禁止されていましたが、アルコール消毒製品の転売についても禁止されることとなります。アルコール消毒製品が買い占められ、高額転売され続ければ、国民の生活不安を無用に煽ることとなるため、転売規制は合理的と考えられます。しかしながら、今回のように、法令により転売規制がなされる例はそれほど多くありません。

 というのも、国民は、国から制限されることなく、自由に経済活動を行うことができるのが近代私法の大原則だからです。所有物を(値段も含めて)自由に売却する行為は、市場経済の根幹に関わるものですから、このような転売行為への制限が正当化されるためには、法律上の根拠が必要となります。

2 国民生活緊急措置法

 今回のマスクやアルコール消毒製品の転売規制の法的根拠は、国民生活緊急措置法にあります。同法26条1項では、「物価が著しく高騰又は高騰するおそれがある場合」で「生活関連物資等の供給が著しく不足、かつ、需給の均衡を回復することが極めて困難」なために「国民生活の安定に重大な支障が生じる」などの場合に、政令で対象品目を指定することにより(マスクやアルコール消毒製品が政令で指定されています)、政府が「譲渡・譲受の制限又は禁止」を行えると定めています。

 なお、「違反行為をした者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金」を科される可能性があります。

 同法は、オイルショック時の急激な物価高騰を受けて、昭和48年に制定され、以降、長らく政令で指定される物品はありませんでしたが、今回、約50年ぶりに対象品目の指定がなされたことになります。

3 古物営業法

 そのほか、転売規制として、日常的に関わり合いが深いものとしては、古物営業法による規制があります。同法では、中古品、もしくは新品であっても使用のために取引されたものを反復継続的に売買する場合は、古物免許が必要であるとし、無許可での古物営業を禁止しています。もし許可を受けずに古物営業を行った場合は、「三年以下の懲役又は百万円以下の罰金」が科される可能性があります。

 ニュース等で大きく報道された例ですと、2016年に、アイドルのコンサートチケットを転売し、約1000万円を売り上げていた女性が、古物営業法違反を理由に逮捕された事例がありました。

4 チケット不正転売防止法

 また、比較的新しい法律ですが、2019年に、特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(チケット不正転売防止法)も制定されました。いわゆる、ダフ屋行為については、各都道府県の迷惑防止条例で規制されていましたが(長崎県迷惑行為等防止条例6条等)、インターネット上の取引は、迷惑防止条例では補足できていませんでした。今後は、同法により取り締まりが可能となります。なお、違反すると「一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金」が科される可能性があります。

 上で述べたように、チケット転売事例で、古物営業法が適用された事例はありましたが、古物営業法の目的は「盗品等の売買の防止」であり、必ずしも不正転売防止が目的というわけではありませんでしたから、法の目的と実態とが合致していないところはありました。

 新たにチケット不正転売防止法が制定されたことにより、今後は、チケット転売事例では、チケット不正転売防止法が適用されることになるものと思われます。

5 まとめ

 このように、近代私法の大原則として、自身の所有物をどのように処分しようが自由であるため、これを制限するような転売規制の法令は、決して多くはありません。新型コロナウイルスの影響下で、国民生活緊急措置法及び同政令で規制された物品も、マスクとアルコール消毒製品のみとなっています。

 ただし、実態としては、マスクとアルコール消毒製品以外の物品についても、買い占めや転売行為は多く見られます。仮に、法的規制がなくとも、無用な社会不安を煽る行為は慎むことが望ましいでしょう。