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椎間板ヘルニアの素因減額-判例の枠組み

以前からたびたび書いてきましたが、裁判所の考え方は、体質的素因について、「疾患」ならば減額するが、「身体的特徴」は減額の理由にならないというものでした。

このブログでは、できる限り分かりやすくと思っているので、判決の引用は避けているのですが、次回以降の記事の前提として、最高裁判決を引用しなければなりません。我慢して目を通してください。

それが、最高裁平成8年10月29日判決です(「首長判決」と言われています。平均的な体格の人に比べて首が長いことが、胸郭出口症候群やパレリュー症候群の発症に関わったとされたケースです。)。
「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情の存しない限り,被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。」

ところで、実は、最高裁では、同じ平成8年10月29日にもう一つこの問題に関する判決が出ています(「後縦靱帯骨化症判決」と言われています。事故前から、加齢による後縦靱帯の骨化が進行していたケースです。)。
この判決は、後縦靱帯骨化症を疾患だとした上で、次のように言いました。
「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の規定を類推適用して,被害者の疾患を斟酌することができる」

特に、この後縦靱帯骨化症判決ですが、実は、この後に続くところに、交通事故被害者にとっては、かなり厳しいことが書かれています。
「このことは,加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたかどうか,疾患が難病であるかどうか,疾患に罹患するにつき被害者の責めに帰すべき事由があるかどうか,加害行為により被害者が被った衝撃の強弱,損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者の多寡等の事情によって左右されるものではない」

こう言われると、椎間板ヘルニアも加齢による変性が前提にある病気ですから、「疾患」にあたりますし、そうすると、事故前に症状が出ていなくても、素因減額されてしまいそうです。

ところが、この最高裁判決後も、地裁、高裁では、椎間板ヘルニアによる素因減額を認めない判決が出ています。
もちろん、最高裁判決の枠組みは変えないのですが、その中で、いろんな工夫をしている判決があるのです。
被害者側弁護士としては、最高裁判決の枠組みの中で、これら地裁、高裁判決を参考に、どうたたかうかを工夫しなければなりません。